アウトリガーカヌーとは?

アウトリガーカヌー (Outrigger canoe) は、南太平洋などで用いられるカヌー。最大の特徴は安定性を増すために、カヌー本体の片脇あるいは両脇にアウトリガーとも呼ばれる浮子(ウキ)が張り出している点です。この浮子は多くのポリネシア諸語やミクロネシア諸語でama(アマ)とよばれ、これを装備したアウトリガーカヌー自体はタヒチ語ではヴァア (va’a) 、ハワイ語ではワァ (wa’a) 、マオリ語ではワカ (waka) 、ヴァカ (vaka) などの言葉で呼ばれています。

アウトリガーカヌーの歴史

元々、太平洋の島々では宗教的な意義を持つカヌー競争が盛んに行われていました。それぞれの島や集落は屈強な若者を揃え、先祖への祈りをこめ、また豊穣を祈ってアウトリガーカヌーの競争に臨みました。しかし、キリスト教の教えによって旧来の文化は否定され、抑圧の時代がこれら伝統を消し去ってしまったのです。

一旦滅びかけた太平洋の民族の象徴とも言うべきアウトリガーカヌーの文化は、20世紀に入ってからハワイが観光地として発展するに伴い、レジャーやスポーツとして復活を遂げました。島を訪れた人々は、この素晴らしい舟に乗って海を楽しみ、その魅力にとりつかれたのでしょう。こうして、ハワイではアウトリガーカヌーのレースイベントが盛んに行われるようになりました。ハワイで高まったアウトリガーカヌーの人気は、一気に他のエリアへも波及しました。このキッカケとなったのが、水泳競技で名を馳せたハワイアン、Duke Kahanamukuです。彼はアメリカ代表としてオリンピックで活躍しただけでなく、世界中のビーチを訪れポリネシアの文化を広めて回りました。Dukeが伝えたのはサーフィンだけでなく、その起源ともいわれるアウトリガーカヌーやポリネシアンのライフスタイルまで幅広いもの。そして、同じ文化圏であるフレンチ・ポリネシア(タヒチ等)、続いてアメリカ西海岸、さらにアオテアロア(ニュージーランド)で、アウトリガーカヌー・レースは人気スポーツへとなっていったのです。

スポーツとして世界で親しまれるアウトリガーカヌー

アウトリガーカヌーは、現在、スポーツとして発展し世界各国でレースやトレーニング、レクリエーションとして楽しまれています。アウトリガーカヌーレースは、競技としての興奮と、自然との調和を楽しむことができます。数百メートルのスプリント競技や、数十キロのロングディスタンスレースといった様々な距離や形式で行われ、IWFを始めとした国際的な大会もあります。レースでは、漕手が力強い漕ぎを繰り出し、チーム全体がタイミングを合わせて進みます。また、戦略や航法能力も重要であり、風や波の状況を読みながら最適なルートを選択する必要があります。最も典型的なレースが、ハワイ諸島のモロカイ島からオアフ島までの海峡を横断するMolokai Hoeです。現在でもMolokai Hoeはアウトリガーカヌーの最高峰レースとして毎年世界中からチームが集まり、過酷なコンディションの下、熱戦が繰り広げられています。

現在ではヨーロッパ、北米、南米、そしてアジアでもアウトリガーカヌーのクラブが組織され、人気は高まる一方です。ロンドンのテムズ川、ニューヨークのハドソン川、フィレンツェのアルノ川をアウトリガーカヌーが進む光景はもはや日常的。この次は東京・大阪の出番かもしれません。

アウトリガーカヌーの精神性

アウトリガーカヌーは、何もかもが便利な現代社会とは全く反対の精神をもつ乗り物です。一切の動力を使わずに、お互いを信頼しあう人間の力だけで海を渡っていく姿は何百年たっても変わることがありません。自然の力に抗うことなく流れや風をつかむには、野性的な感覚を研ぎ澄ますことも大切。

自然を尊重し、自分の命を預けるアウトリガーカヌーを大切にし、力を合わせて共に目的地を目指す仲間を信じる、ということが求められるのです。ごく当たり前な話ですが、しかし日常生活ではなかなか実践できないことでもあります。

仲間が集まったら挨拶しあう、アウトリガーカヌーや道具類は最大限の注意を払って丁寧に扱う、海でゴミを見たら拾う。このような小さな行動の積み重ねがあって、初めてアウトリガーカヌーに乗るにふさわしい人間として認められるのです。